第2章:倒産(5)

自宅まで来る債権者はいませんでした。すべての業者さんと良好なお付き合いをさせてもらっていましたが、お金の事になればそれは別の問題、当然です。私も以前取引先企業が倒産した時、相手方の社長宅まで行った事がありましたから、その気持ちはとてもよくわかります。もしそうなった場合、ちゃんと向き合って、謝罪の気持ちを伝えるつもりでした。それがせめてもの誠意と考えていました。しかしその後も、誰も来る事はありませんでした。

 

自宅にはインターネットを引いていませんでしたが、今後もまだ弁護士との連絡や書類作成でパソコンとインターネットは必要でした。パソコンは自前で買った仕事用のノートパソコンが1台ありました。安いプロバイダーと契約をしてインターネットが繋がるよう整えました。

 

申し立ての準備がほぼ整った頃、次にやる事は仕事探しでした。業務停止時点で手元に残したお金は60万円、家内と2人の生活でもって3ヵ月、しかも半分は管財人から否認されれば、返金をしなければいけないお金でした。

私は25年ぶりに履歴書を書き、仕事探しを始めました。

 

同時に役所に行き、国民健康保険の加入手続きや国民年金の納付免除手続きなどをしました。仕事探しには大いに不安がありましたので、福祉課にも行き、生活保護制度の詳細も聞きました。福祉課の担当者から生活保護の1つ手前に自立支援制度もある事を教えてもらいました。

 

私は、今までの業界では仕事をするつもりは一切ありませんでした。業務停止から今日までの間に、今後の仕事先について声をかけて下さる関係得意先もありました。「この歳で新しい仕事は無理でしょ」とはっきり言う方もいました。しかし負け惜しみではなく、この業界にはもう未来を感じませんでした。「とにかくアルバイトからでもいいから、新しい事をしよう。違う世界で仕事をしてみよう」そう考えていました。

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