第1章:倒産までの状況(15)

Xデー、それは一切の営業活動を停止し、債務整理を弁護士に一任したことを宣言する日、本日をもって倒産準備に入りましたと関係者すべてに伝える日です。そして裁判所への破産申し立ては、延納を申し入れた税務署に配慮してできるだけ早く、Xデーから1カ月以内という予定にしました。これは倒産準備に入った事を税務所に察知されてしまうと、強制的に銀行口座を差し押さえられる可能性があり、売掛金の回収などに支障をきたすリスクがあったためです。私は誰にも気づかれぬよう、とにかく一人で、日々の業務を平常にこなしながら、Xデーと破産申し立てに必要な資料の作成を進めました。それはかなりの事務処理量でした。弁護士から指示された資料を毎日作ってはメールで送り、ダメ出しをしてもらっては直しを繰り返し、まとめていきました。

 

委任契約をした日、弁護士に「倒産処理を進める上で一番大事な事はなんですか?」と私は聞きました。弁護士の答えは「決して諦めない事」でした。

 

Xデー当日は業務終了後全従業員に残ってもらい、会社の実情を説明し倒産準備に入った事、今日付けで全員解雇になる事、営業活動の一切を停止する事、を伝える事にしました。弁護士にも同席してもらい、今後の法的な処理の進み方などを説明してもらう事にしました。関係各社に対しての通知は、従業員への説明の開始と同時に、緊急性のある関係先には弁護士事務所から各社へFAXで送付してもらい、銀行口座にある会社の資金は同日のうちにすべて引き出しておく事にしました。

私の当座の生活費については、同日最後の役員報酬として60万円を手元に残すことにしました。Xデーの頃には、私の所持金はほぼ0円になっていると予想されました。弁護士からは、「この件は先々管財人から否認されて破産財団に返金を求められるかもしれない」と説明を受けましたが、先立つものがなければ食べる事もできません。そのリスクは承知で進める事にしました。

 

そして、Xデーが近づいてきました。

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