第1章:倒産までの状況(12)

私の頭の中は、少しずつ現実に戻されていく感覚でした。何かを話さなければいけない。そう考えながら、今のこの醜態を友人にはさらしたくないと、直感的にそう思いました。「ごめん、ありがとう、あとは2人で話したいから、必ず連絡するから」そう友人に伝えました。「わかった」友人はそう答えて、心配そうな表情で一度家内に目をやり、それから車に乗り込みました。

 

友人が離れて、しばらく沈黙していました。「お金のこと?」と家内が口をきりました。「うん」私はそう答えて、大きく息を吸ってから、今までの事を話し始めました。ひと通り話し終えると、再び沈黙になりました。

 

時計を見ると、午前5時30分を回っていました。あと1時間で早番の社員が来ます。私はとりあえずここを片付けて、一度家に帰るしかないと思いました。

「ここはまずいから、家に帰ろう」家内にそう告げました。私は、天井の梁に縛ったロープをほどき、床に置いた遺書を集め、倉庫の中を元の状態に戻しました。そしてシャッターを下ろしカギをかけ、ふたりで倉庫から離れました。大きい通りに出てタクシーをひろい、乗り込みました。家に着くまでまた沈黙でした。

家に着いた頃、外は明るくなっていました。私は凄まじい疲れを感じました。とても何かを話す気力はもうありませんでした。私は家内宛てに書いた遺書を彼女に読ませました。

 

今日の仕事の事が頭をよぎりました。私は主要社員達に、「朝から体調不良で今日は自宅にいる。緊急連絡だけメールで入れてほしい」とメールで連絡し、「とりあえず、寝たい。もう大丈夫みつかっちゃったからね。これからどうするかは寝てから考えるよ」

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そう家内に伝えて、ベットに入りました。

私は夕方まで、眠っていました。ここ数カ月の不眠が嘘のように、とても深く、深く眠っていました。